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【特集】音楽家のYouTube活用第一弾!フルート奏者・大塚ゆきさん

”YouTubeが、思わぬ形で私にいろいろな出会いや機会を与えてくれた”

著者:MuseMate編集部  2022/10/23  無料

音楽家のYouTube参入が一般的となった昨今、演奏動画や作曲作品のみならず、レッスン動画がメインのチャンネル、YouTuberのようなエンタメ動画を投稿するチャンネルなど多様な活動形態がみられるようになった。「プロの音楽家」として活動する人間がYouTubeというプラットフォームをどのように活用しているのか、MuseMateではさまざまな事例をリサーチし、発信者へのインタビューを敢行した。

特集「音楽家のYouTube活用」最初の記事では、自身のリサイタル活動のほか、音楽大学の講師も務めるフルート奏者の大塚ゆきさんにお話を伺う。

”大学の休み”がきっかけ。はじめは生徒向けに

MuseMate編集部(以下、MM):本日はよろしくお願いします。まずはじめに簡単な自己紹介をお願いします。

大塚:フルート奏者の大塚ゆきです。今は関西を中心に演奏活動をしたり、後進の指導をしたりしています。あとはYouTubeの活動もしております。

MM:今回は「音楽家のYouTube活用」というテーマでインタビューさせていただくのですが、大塚さんはいつ頃からYouTubeを始められたのですか?

大塚:新型コロナウイルスが流行り始める1~2ヶ月前。冬休みで大学がなくなって、ちょっと暇になったんですよね。 学生や弟子を教えていて、言うことも同じだし、私が喋ることをレコーディングして、他の弟子も聞いて欲しいなっていう思いから。 YouTubeに動画を上げておけば「この動画見といて」って言えると思ったのがきっかけかな。後から見返せるし。 ほんとに生徒のために作ってたというのが最初です。

MM:新型コロナが流行り初めて、いろんな大学が授業をYouTubeに載せるようになったと思うのですが、それに近いことを少し早く個人で始められていたのですね。

大塚:もちろん最初からそんなに何本も出すつもりもなくて、ベーシックなこと、基礎練とか、そういうことを生徒向けに話して、終わろうかなと。何も考えてなかったですよ。

登録者6,000人超え。規模が膨らんだきっかけは

MM:現在は登録者が約6,000人(2022年10月現在)。生徒さんだけでなく各地で知らない人にも観られているような規模だと思うのですが、そこに至った経緯や、継続的に発信することになったきっかけをお聞かせいただけますか?

大塚:(2020年の)1月、2月と動画投稿を続けていて、2月くらいからコロナの影がひたひたと迫って来ていたけど、まだ日本ではそんなに大きなことになっていなかった時に…… あ、2月も大学休みなんですよ。2月に家族でハワイに行ったんですよね。

その時も動画が溜まってたから、ハワイからちょこちょこアップロードしたり、日本でアップロードしたものが見られてたりして、そこで1個キラーコンテンツ的なものが上がったんです。 全然予想してなかったんですけど、登録者がバーっと増えたんですよ。1日に300人とか、400人とか。

「すごいことになってるな」と思って。 たぶん半年もかからないうちに1,000人くらいいったと思うんですよ。 収益化が半年くらいでできたから、とりあえず「収益化できたんだったら」と思って、続けることになったんですよね。

MM:ちなみに、キラーコンテンツというのはどの動画ですか?

大塚:『5分でできる【良い音】の作り方』というやつね。

MM:やっぱりタイトルに数字が入ると強いですよね。

大塚:そうそう。5分でできるとか言うと、キャッチーなコピーでみんなつられちゃうよね。 それが今だに、アナリティクスとか見ても1番に来るんですよね。

MM:YouTubeは1本当たると、そこが入り口になってみんな見てくれるということがありますよね。

大塚:そうなの。あの頃からもう2年も経ってて、あんなマイクもiPhoneだしね。背景も考えてないし、テロップも付けない、あんなグダグダな動画が、今だに見られてるね、よく。

大塚さんの活動においてYouTubeの位置づけは?

MM:音楽家のYouTubeは人それぞれいろんな使い方があると思うのですが、大塚さんの場合は、大学で教えたり、演奏活動をされながら片手間にYouTubeをやるという感じですか?

大塚:そうとも言えるんですけど、YouTubeも私なりに、100%の力でやってるんですよ。もちろん演奏活動に支障が出ない程度にね。 ある程度力は抜いてるんだけど、YouTubeもYouTubeで、やっぱり見てくださっている方がいる限り一生懸命やらないと、片手間っていうのは私自身あんまり思っていなくて。

もしかしたら最初はそうだったのかもしれないけど、やっぱりクラシックのフルート業界の中で、「大塚さんってYouTubeやってるよね」ってある程度言われ始めて、そうなるとやっぱり「ちゃんとやろう」って。自分のためにね。

自分のためにちゃんとやろうという思いがあるから、比率というか、気持ち的には、音楽家としての活動もYouTubeの活動も一緒くらいです。

MM:なるほど。素晴らしいことだと思います。動画を作るための時間のやりくりは、どうされていますか?

大塚:どうしても、やっぱり優先事項っていうのは、大学で講義したり、あとは演奏会があったり、ライブがあったり……これらは目の前に迫ってくるけど、YouTubeは締切がないし、自分で決められる。だからちょっと後回しにはなるんだけど、でも週に1本は出そうかなっていうふうに。 待ってくださっている方が、もしかしたらいるかもしれないし。そこはもう、1時間でも早く起きて、気合いでやってます。

MM:わかります。「1時間早く起きればいける!」「1時間遅く寝ればいける!」ってやりがちです。

大塚:私の場合、一気にできないからね、毎日コツコツ30分とか。朝9時からしか音出しができないから、その前の30分だけでもYouTube編集するとかね。 そういう時間を毎日作るとまあ、週に1本はなんとか。

MM:YouTubeを始める前と後で、ご自身の音楽活動に何か変化はありましたか?

大塚:私はアメリカ留学から帰ってきて、自分で教室を持ったんです。十何年間やって今は教室は閉じたんですけど。 いろいろお誘いはいただいたり、演奏活動もそれなりにやってはいたんだけど、自分のペースで好きなことをやっている感じだったんです。

YouTubeをやって、ある程度知ってくださる方が多くなって、逆にそこからの仕事が増えた。コロナ禍で私も暇になったし、大学もオンライン授業だとか休みになったりとかでね。

それでオンラインレッスンを始めたり、今は多過ぎちゃって募集停止してるんですけど。あとは「YouTubeで知ったんですけど、ここで演奏してください。」という依頼があったりとか。YouTubeが、思わぬ形で私にいろいろな出会いや機会を与えてくれたかな、と思います。

同業者のチャンネルはライバル?それとも――

MM:自分以外のフルート奏者のYouTubeチャンネルを見ることはありますか?

大塚:めっちゃ見ます!

MM:それは結構ライバルみたいなイメージ?

大塚:全然思わない! むしろ「すごいな」と思うし、苦労もわかるし、「この人頑張ってるから、私も頑張ろう」って思うし、「いつかお会いできたらな」とも思う。もしかしたら20代だったらライバルとか思ってたかもしれないけど……

同志というか、頑張ってるな。っていう。流石だなって思って勉強させていただくことも多いし、参考にしてます。

MM:知り合いから「YouTubeを始めたい」という相談を受けることなんかもありますか?

大塚:あります。カメラの選び方とか、マイクとか。ジャズの人とか、トランペットの人とか、カメラを購入する相談とかされました。

MM:今の時代、配信アプリが流行っていたり、音楽家がオンラインで発信する選択肢もずいぶん増えたと思うのですが、YouTubeの良いところって何かありますか?

大塚:「17LIVE」とかのプラットフォームって、ちょっと若い子向けな気がしてて。作業配信とか、練習してますよ配信とか、気軽に流せるプラットフォームというイメージ。YouTubeは割と、もうちょっと作り込んだ動画を流した方が良いのかな、そういう棲み分けがあると思います。

私の場合はTikTokとかやり始めたら、何か始めたら何か削らないといけないので、もうYouTubeだけ。だから、他はあまりよく知らないんですけどね。

MM:数字との向き合い方はどんな感じですか? 力を入れてコンテンツ作りをされていると、やっぱりどういう動画がよく観られるとか、観られないとか考えることもあると思うのですが、YouTubeをやっていく上でのコツとか、これから始める方へのアドバイスみたいな意味も含めて、何かありますかね?

大塚:なかなか難しいところで、自分がわかって欲しいなとか、理解してもらえたらいいなって思うコンテンツと、ウケるコンテンツがちょっと乖離している部分があってもどかしい気持ちはあるんだけど。

例えばポップスを歌っているミュージシャンが、本当は自分はこういう音楽をしたいんだけど、私たちのウケる音楽(ヒット曲)はこっちだよね、みたいなのとちょっと似てるかなと思います。

だからバランスだと思うんですよね。キャッチーなコピーで視聴者さんの心を掴むものばかりを追い求めても、もちろんそれが自分のしたいことと一致していたらいいんだけど、ちょっと違ったりするとストレスになるし。かといって全部が全部自分の「これ見てみて~!」「わかってよ!」みたいな感じだとやっぱり視聴者さんも離れるし。

最近はちょっとエンターテイメント性を持たせた動画と交互に出すようにしてるかな。視聴者の目線で考えると、気軽に見れるコンテンツも欲しいし、勉強したい人も中にはいるわけで、だからそのバランスはちょっと考えるようになったかな。 こんなのがあったら楽しそうかなとか、音楽に興味を持ってもらえるかなっていうコンテンツと、学んでいる人のためになるっていうコンテンツを交互にとか、バランスよく散らばるようにはしてますね。

フルート奏者としての大塚ゆきさんを深堀り

MM:ここからは少し、演奏家・フルート奏者としての活動のお話をお聞きします。さきほどアメリカ留学の話が出ましたが、どちらの大学に行かれたのですか?

大塚:インディアナ大学です。インディアナ州のブルーミントンっていうところにあるんですけど、超ド田舎(笑)。

MM:ジャズでよく名前を聞きますね。

大塚:そうそう、ジャズ科有名だったんですよ。私もそこでたくさんジャズに触れましたね。最初一緒に住んだルームメイトがジャズの人だったし、いつも朝からマイルスが流れているような。

友達もジャズ科の黒人の子たちが多かったんですよ。全然英語も喋れないんだけど、関西のノリに合うというか(笑)

大学のそばにあるパブとかで、毎日毎晩ギグがあったし、ビッグバンドもあったし。私自身の勉強はクラシックや室内楽、そういうメジャーにいたけど、外で楽しむのはジャズが多かったです。

MM:なるほど。大塚さん自身はクラシックを専攻されていたなかで、留学先にアメリカを選んだ理由は何が決め手だったのですか?

大塚:私、中学高校の時ミュージカルをやっていたんですよ。ミュージカル劇団みたいなところにいて。それと、母が歌手でポピュラーも歌ってたりとかTV番組とかにも出てて。

だから、クラシックの環境で生まれ育ってはいるんだけど、割と生活の中にポップスもあったし歌ってたっていうのもあって、オフブロードウェイから来日した人たちのミュージカルに一緒に子役で出てたりとか、アメリカが好きだったんですよね。『Back to the future』とかね、ああいうので憧れてて。「MTV」とか観まくって、マドンナとかマイケルジャクソンとかさ。

クラシックだとほとんどの人がヨーロッパに――アメリカも最近は多いけど――割とヨーロッパが多い中で、私はアメリカだと思って。そんな時にインディアナで師事した先生がちょうど来日して、「おいで」って言ってくださったので、タイミングが合って。もともと行きたいなという気持ちはあったところに、先生が見つかったという感じです。

MM:帰国されてクラシックをメインに活動されていますが、最近は多岐にわたるジャンルでのご活躍を拝見しています。今後の展望や、やりたい事などをお聞かせいただけますか?

大塚:ちょうど先週、無伴奏のソロリサイタルを自分で企画してやって、立て続けにピアノとのリサイタルも今企画しています。この2本の企画を終えたら、クラシックのリサイタルは一旦お休みして、ちゃんとジャズとかポップスを勉強してみたいと思っています。クラシックから学ぶことは多いし、大好きな音楽なのでやめることは考えていないけど。オリジナル作品を書いてみたくて、ちょこちょこ書いてはいたんだけど、そういうのを日々のルーティンにしてみたいなというのがあります。色々やってみたい。

ホールで演奏するのも好きなんです。アンサンブルも好きだし、お客さんもドレスアップして、こっちもドレスアップして迎えて……ちゃんとしたフォーマルな場所も好きなんだけど、リビングにピアノがあって何か楽しそうな音楽が流れてるから、私も加わってみんなで「イェイ!」みたいな、楽器がない人は歌って踊ってみたいな雰囲気も好きなんです。いい音楽はジャンルに関係なく好きなんですよ。いずれは何かみんなが演奏して集まってたら、そこに自分も飛び込みたいという思いがあって、それをやるためにはクラシックの勉強だけじゃ不十分だなと思って。もちろんそれが基礎にあってこそなんですけどね、遊ぶための知識を入れたり技術と経験を積んでいけばもっと楽しいことに自分はなるのかなと思って。みんなとわいわいしたい。

楽譜が配られて「せーの」で演奏するクラシックの世界も素晴らしいんだけど、ブルースとかで遊ぶみたいな、そういう会話の仕方も好きなんです。ジャズって形じゃなくても、自分のオリジナル作品でライブするというのは、夢というか、いつかできたらなと思っています。

MM:音楽を通して自由にコミュニケーションをとっていきたいという感じなのですね。

大塚:それが逆にクラシックの活動に対してもいい方向に動いていて、自分で曲をアレンジしたり、クラシックの作品を勉強するときにわからなかったことも見えてくるし、クラシックの作品をフルートのためにアレンジしてっていう依頼も来たりとか、やって本当に全部良くなったなっていう。

MM:本日はありがとうございました。最後にぜひ今後のご活動について、演奏を聴ける機会などがあれば教えて下さい。

大塚:YouTubeではフルートに特化したチャンネルをやってます。フルートってどういうふうに吹いたらいいのか、フルートを始めたい人や始めたけど躓いてる人に、少しでも上手くなって楽しんでほしいなっていう思いでやっています。それと、クラリネットとかサックスの人で、フルートの横で吹いててどんな楽器かなって思われる方も覗いていただけたら、フルートってこういうことが難しいんだとか、他の楽器の方も観ていただけたらと思います。

大塚ゆきさんのチャンネルはこちら

また、来年早々なんですけど2023年1月18日(水)に大阪府の豊中市立文化芸術センター小ホールというところでリサイタルをさせていただきます。フルートとピアノのデュオリサイタルです。

メインがブラームスのクラリネットソナタ2番なんですよ。それをフルートで吹くという賛否両論のプログラムを(笑) 私はオーケストラ奏者じゃないのでブラームスの作品に触れることがあまりない。ちょっと申し訳ないんですけど、ブラームスのクラリネットソナタ、1番も好きなんですけど2番が大好きなので、これをフルートバージョンで演奏させていただきます。 あとはプロコフィエフのソナタとか、コープランドのデュオ。19時開演、90分くらいのコンサートです。よろしければぜひチェックしていただけたら嬉しいです。

MM:大塚さん、本日はありがとうございました!

大塚:ありがとうございました!

――そんな大塚ゆきさんは、YouTubeメンバーシップで配信している「課題曲生配信」の単品販売をMuseMate生放送にも出品している。フルートレッスンに興味がある方は是非チェックして欲しい。

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