音楽の都ウィーンで過ごした日々!「後悔が何もない」のが留学して良かった証拠
ウィーン市立音楽芸術大学で音楽を学んだピアニスト・Yukiさんの海外体験記——「音楽の都」として名高いオーストリア、ウィーン。特集「音楽家の海外体験記」、今回はクラシック音楽に携わる人なら誰もが憧れるその街で音楽を学んだ経験を持つ、ピアニストのYukiさんにインタビューを敢行した。
日本の音大へは行かず、アルバイトで人生を模索した2年間。
MuseMate編集部(以下、MM):はじめに、簡単に自己紹介をお願いします。
Yuki:Yukiです。ピアノをやっています。あと作曲などもしています。よろしくお願いします。
MM:音楽歴も簡単にお伺いできればと思います。ピアノは何歳くらいの頃から始められたのでしょうか?
Yuki:小学1年生の時からYAMAHAに通い始めて、最初はエレクトーンのコースしかないので小学4年生くらいまでずっとエレクトーンをやっていました。そこからピアノの個人レッスンが始まって、高校は関西にある国公立の音楽系の学校に通いました。卒業後、大学へは行かずにアルバイトをしながら2年間くらい人生をちょっと模索しまして……。ピアノのプライベートレッスンにはその間も通っていました。
2018年の2月にウィーン市立音楽芸術大学(独:Musik und Kunst Privatuniversität der Stadt Wien)に合格しまして、その年の秋から入学して、2023年の3月に卒業しました。今は完全帰国して、自分のコンサートや伴奏のお仕事をこなしながら、子どもたちにピアノを教えています。
ウィーンとの出会いは高校時代。
MM:今回は「海外体験記」ということで留学についてお話を伺いたいのですが、そもそもウィーンに行こうと思ったきっかけはなんだったのでしょうか?
Yuki:高校生の時に出場したコンクールにマスタークラスのようなものが付いていました。2回くらいレッスンを受けられるコースに申し込んだのですが、その時に知り合ったウィーンの先生に感銘を受けまして、この先生に習ってみたいなと思いました。その先生には「もう今からでもウィーンに来ちゃいなよ」と言ってもらったんですよ。でも、さすがに高卒は持っておいた方が良いかなと思っちゃって。中学校しか卒業していない高校の途中でウィーンに渡っちゃうのはちょっとリスキーなのかなと。
急に海外に行くと言っても高校の先生たちもびっくりだし、向こうに親戚はいるのかとか聞かれて、何もアテはなかったのでちょっと心配されちゃって。それで、日本の大学に挑戦して合格はしたんですけど、これでいいのかなと思って辞退させていただいて……そういうきっかけでしたね。
MM:高校生の頃から視野には入っていたわけですね。入試は現地ですか? 日本でも受けられるのでしょうか?
Yuki:入試は海外です。コロナの時期だけ、録音を送って受かったという方もいました。
英語は分からないからむしろドイツ語で頼む!
MM:ドイツ語はどうやって勉強されたのですか?
Yuki:オーストリアやドイツの大学を受験するときは必ず資格が必要なんですね。A1、A2、B1とかランクがあるんですけど、B1ランクを持っていないと入学できないということに気づいたのが結構遅くて……!
メインの留学の前に、一度短期留学をしたんですよ。その時にできた友達が教えてくれて、「あ、語学学校に通わないといけないんだ!」って。当時は独学で挨拶と自己紹介くらいしかできなかったので。英語も全然ダメだし。
短期留学から帰ってきてすぐに、ドイツ語学校に通いました。A2までの授業は受けて、B1はやっぱり難しくてなかなか取れなくて。それはもう現地に行ってからどうにかしました。
MM:大変よくわかります。私(※インタビュアー、壱岐)も英語が喋れない状態でアメリカに留学して、初めは知らないゲームをプレイするような感覚でしたね。空気を読みながら行くんですよ、多分次の授業はこの部屋みたいな(笑)
Yuki:そうそうそう!
MM:大学の授業も基本的にドイツ語ですか?
Yuki:そうです。どうしてもアメリカの子が多いとか、留学生が多い場合には「英語がいい? ドイツ語がいい?」って聞いてくれるんですけど、私的には英語はできないからドイツ語で頼むみたいな感じでした。
MM:留学生もたくさんいましたか?
Yuki:もちろん。やっぱり音楽の都で学びたいと思う人は多いんだろうなと思いました。
「後悔が何もない」のが留学して良かったという証拠。
MM:現地の授業と、日本で受けた音楽教育との違いについて何か感じることはありますか?
Yuki:正直、日本の音大に通ったわけではないので具体的な違いはわからないんですけど、私が個人的に感じたのは、古楽器だったりピアノになる前の楽器をすごく身近に感じられる授業を多数受けられたりだとか、音楽理論などの座学に関してもクラシック音楽の本場の教授からドイツ語で学ぶことで理解が深まったりだとか。楽曲分析を踏まえた演奏や、作曲をする時の考え方が変わったなと思っています。その変化が日本にいても同じように感じられたかというと、私はちょっと無理だったかもなと個人的には思います。
MM:なるほど。ずばり、ウィーンに行って良かったことは?
Yuki:コンサートに”立ち見価格”や”学生価格”があって、日本よりもかなり安い値段で本場の音楽を聴きに行けるというのは良い点だと思います。音楽的なことで言うと、音の反響が日本とは全然違うので、そういう”響き”について学べたのも行って良かったと思うことですね。
何よりいつでも良い音楽を身近に感じられる環境に4年間もいられたということ。それが自分の人生にとって宝物だなと思えたり、後悔が何もないというのが「行って良かったな」と心から思えている証拠なのかなと思います。
MM:素敵なことですね。ヨーロッパなので周りの国にも行けると思うのですが、ウィーンの他に行ったところはありますか?
Yuki:そうですね、ドイツのベルリン、イタリアのローマ、チェコ、スロバキアにも行きました。オーストリアの中でもザルツブルグとか、リッチャウっていうすごい田舎町に行ったりとか。
MM:音楽史で名前を聞くところばかりですね。
Yuki:そうですね。
大学に合格しているのに学生ビザが取れない! 仕方なく一度帰国することに。
MM:逆に苦労したことは何かありますか?
Yuki:苦労したことは……ビザ! 海外は絶対にこれが付き纏いますよね。ウィーンは移民の問題とかもあって、ビザが隣接している周りの市と比べても厳しいと言われていて。私は最初ビザが取れなくて帰国して、また書類を集め直してもう一回渡って……みたいなことをしてるんですよ。あれは苦労しました。
MM:ええ!? それは大変でしたね。学生ビザになるのでしょうか?
Yuki:そうです。
MM:学生ビザでも取れないことがあるのですね……!
Yuki:そうなんです、担当官によっては。一回全部破棄して、なかったことにしてもらって、お家も一度解約してまた契約し直してみたいな。
MM:ということは、短期滞在できる方法で先に渡欧して、現地で学生ビザの申請をしたという形ですか?
Yuki:そうです。パスポートで半年間いられるんですよ。その間にビザを取れると思っていたんですけど、そう甘くはなかったです。
MM:合格が出ているのにビザが取れないなんて……。
Yuki:そうなんです! 「ええ!?」っていう。もう大学に通い始めていたんですよ、パスポートで。だから学生証も出てるし、普通に大学生活が始まってるのにビザだけ永遠に取れなくて、これはやばいと思って一度帰国することになりました。
勇気を出して声をかけてみるのが未来への第一歩。
MM:4年半のオーストリア生活を経て、今は関西にお住まいなんですよね。今後のご活動について、日本でどういう風にやっていきたいなど、目標があればぜひ教えてください。
Yuki:今、生徒さんが40人くらいいて、少しずつ音楽の基礎知識をシェアしているところなんですけど、やっぱり楽しんでくれたらいいなと思いますね。小さい子たちを主に教えているんですけど、音楽を続けるにしても続けないにしても、いつか大人になった時に「クラシック音楽って心が和むな」とか、音楽が身近に感じられる子たちが育ってくれたらいいな、良い未来が築けたらいいなと思います。
MM:この記事を読んでいる方の中に、学生の方や、海外に興味がある音楽家の方もいると思います。そういった方々に向けて、メッセージやアドバイスがあればぜひお願いします。
Yuki:私のYouTubeチャンネルを観てTwitterのDMとかで声をかけてくださる方もいて、実際にアドバイスをすることもあるので、何かあれば気軽に聞いてもらえればと思います。
最初は不安がいっぱいあると思うので、やっぱり留学を経験した人とか、現地に住んでいる人とか、住んだことのある人にコンタクトを取るっていうのが自分の中では勇気に繋がることだったので、それは是非した方が良いと思いますね。私も行く前に自分の習っていた先生の門下で留学経験のある人に相談したりしていました。
MM:海外に行くなら特に、勇気を出して自分からいろんな人に連絡してみることが大切ですよね。
Yuki:向こうに行って思ったのが、大学のホームページに教授のメールアドレスが載ってるんですよ。興味のある人にメールを送ってみたら、結構返事をくれるんです。もちろん忙しいから返せないという先生もいらっしゃるけど、「連絡しちゃダメかな」とか思わずに、お願いしますと言えば真摯に向き合ってくれると思います。
MM:今回は、貴重なお話をありがとうございました。ちなみに留学時から更新されていたYouTubeチャンネルは続ける予定ですか?
Yuki:今はちょっと時間がないけど、続けるつもりです!
【出典】YouTubeチャンネル『ピアノ弾きのYuki(ちゃむ)』
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言語の壁やビザ取得の苦難を乗り越えて、ウィーンで4年半を過ごしたYukiさん。現地の思い出を尋ねると、とても楽しそうに返答をいただいたのが印象的だ。音楽の都で得た経験を活かし、先生として音楽の素晴らしさを伝えていくYukiさんの活動を、これからも応援していきたい。
☆YukiさんのSNS、YouTubeをチェック!
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