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弦楽器が入った新しい解釈のジャズオーケストラ"SU-SHI-HO Jazz Orchestra"の初公演が迫る!

アメリカ帰りのヴィブラフォン奏者・窪田想士さん。帰国5年目の本音と本気が詰まったロングインタビュー!

著者:MuseMate編集部  2023/10/27  無料

――ビッグバンドという言葉を知っている人、その演奏を一度は耳にしたことがあるという音楽ファンは多いだろう。トランペット、トロンボーン、サキソフォンといった華やかな管楽器のサウンドがイメージされる大編成ジャズアンサンブルだが、ここに弦楽器セクションが加わった音楽を聴いたことはあるだろうか? 今回は、初公演を間近に控えた新しいラージアンサンブル「SU-SHI-HO Jazz Orchestra」について、主宰のヴィブラフォン奏者・窪田想士さんに、その魅力や今回の公演にかける思いを伺った。窪田さんの人間味溢れる、等身大のインタビューとなった。

始まりはいつもボンゴ。窪田さんの音楽歴を深掘り。

MuseMate編集部(以下、MM):まず初めに簡単な自己紹介をお願いします。

窪田:窪田想士(くぼたそうし)です。ヴィブラフォン奏者、作曲家、ビッグバンドアレンジャーとして活動したり、音楽の専門学校で講師業などをしています。よろしくお願いします。

MM:ヴィブラフォンはいつ頃から始めたのですか?

窪田:大学1年生のときですね。

MM:それ以前から何か楽器はやっていたのでしょうか?

窪田:小さい頃、ピアノを半年満たないくらいやってたらしいんですよ。全然覚えてないけど。

北海道札幌市の出身なですけど、小学4年生の時に地元で吹奏楽部が有名だった東海大学附属第四高等学校(現・東海大学札幌高等学校)の定期演奏会を聴きに、札幌コンサートホール Kitaraに行ったんです。その時のゲストがラテンパーカッショニストの横山達治さんだったんですけど、演奏をみて「打楽器すげー」ってなって、小5の誕生日に両親にボンゴを買ってもらったのが、打楽器の始まりです。

そのあと中学で吹奏楽部に入って、高校で軽音楽部に入って、音楽大学に入ってっていう流れ。

MM:なるほど。打楽器奏者としては、ヴィブラフォンじゃなくてボンゴから始まったんですね。

窪田:そう、始まりはいつもボンゴ。

きっかけは『スーパーマリオ64』 独学で始めた作曲。

MM:作曲の方はいつ頃から?

窪田:えーと、ビデオゲームってあるでしょ。NINTENDO64っていうのがあったんですよね。その『スーパーマリオ64』っていうゲームのBGMがすごく好きだったんだけど、地元の楽器屋にピアノ版の譜面が売ってたんですよね。『ウォーターランド』(「かいぞくのいりえ」BGM)っていう曲がすごく好きで、頑張って独学で弾いてたんですよ、それを。

で、そこに出てくる左手の形をいろんな音に変えてみたら、なんか伴奏っぽいなってことに気づいて。小3のときかな、父親が新しく買ったMacのパソコンに「Finale Allegro」っていう無料版の楽譜ソフトが入ってたんですよ。それを使って、さっきの伴奏の形を色々と動かして1曲作ったのが最初です。

中学に入ると「THE BLUE HEARTS」を聴くようになって。インターネットで調べるとコード進行が出てくるじゃん。それをキーボードのコード表を見ながら弾いて、コードというものを覚えました。理論的な話は何も知らない状態で、初めてバンドの曲を作ったのがその頃かな。

MM:ゲーム音楽、打楽器、パンク・ロックと色々な変遷があったのですね。そこからジャズを始めたのは?

窪田:ジャズはそこからだいぶ後で、『ルパン三世のテーマ』を聴いたのがきっかけで、音大の1年生の時にジャズの世界に飛び込んだって感じですね。

MM:大学では、本来はクラシックの打楽器専攻だったのですよね?

窪田:そう。大学は太鼓科でした。マリンバ科ならいざ知らず、僕はティンパニとか小太鼓とかの専攻なので、ヴィブラフォンはもう完全にジャズをやるために始めたんですよ。でも試験でクラシックのヴィブラフォンの曲とかもやったよ、2度とやらないけど。

バークリー音楽大学へ留学。何を学んだかというと、何もかも。

MM:その後アメリカ、ボストンのバークリー音楽大学へ留学されたのですよね。

窪田:バークリーのジャズ作曲(Jazz Composition)科に行きました。本来はヴィブラフォン奏者になりたくて留学したはずだったんだけどね、人生ってよくわかんないよね。渡米前に習っていた師匠の赤松敏弘先生が「窪田、パフォーマンス(演奏科)で行くの?」って。「その予定です」って言ったら「将来潰し効くからジャズコン(ジャズ作曲科)にしておきな」って。譜面が書ける、アレンジができるっていうことで食っていく方法もあるってことなんだけど、今思えば本当にありがたいアドバイスでしたね。

MM: なるほど。ジャズ作曲科ではどんなことを勉強されたのですか?

窪田:うーん、何を学んだかというと、何もかも学んだからなあ。バークリーに行くまでは作編曲に関することをちゃんと学んだことなんてなかったからね。

MM:ビッグバンドアレンジもバークリーで初めて?

窪田:一応、日本の大学生の時にインストのフュージョンバンドみたいなものを組んでいて、それの作編曲はしてました。でも、体系的なことは全部留学中に学びました。

「もう一度あの頃の野心を取り戻す」一世一代のプロジェクトが始まる

――そんな窪田さんの、一世一代の演奏会「SU-SHI-HO Jazz Orchestra "The Rotten Sushi Rebellion of 2023"」が2023年10月27日に開催される。

MM:このプロジェクトが立ち上がったきっかけを教えていただけますか?

窪田:ラージアンサンブル(大編成のジャズバンド)を書くのがすごく好きで、実はバークリーの卒業制作もラージだったんですよ、ストリングス3本と管楽器3本の。帰国後もありがたいことに赤松先生の予言通りゲーム音楽のビッグバンドアレンジやら、オーケストラアレンジの仕事を多くいただいていました。バークリーでストリングスアレンジの授業に潜り込んだりしていたおかげで何とか書けたんですけど。

そんな感じで、ラージの編曲の仕事をたくさんこなす日々を過ごしていたわけですね。帰国が2018年だから、もう5年経つのか。うん、早いもんだな、光陰矢の如しだな。

この5年間、微妙な低空飛行が続いていました。ヴィブラフォンの仕事もちょくちょく来ます、専門学校の指導職もあります、編曲の依頼も来ます、みたいな。色々やってるんだけど、全部が全部低空飛行。食える。バイトはしてない、食えてはいるみたいな。

そんな時に、一緒に「自炊's」というバンドをやっているピアノの榊原灯香くんから聞いた話が衝撃で。彼は今年の11月からドイツに行っちゃうんですね。色んな機会で一緒に演奏していて、まあ仲良かったのよ。すごい衝撃で、寂しいし、「なんで行くの?」って聴くじゃん。色々理由はあるんだけど、一番印象に残ってるワードが「野心がなくなってきているのが嫌だった」って。ドイツに行くことでもう一度野心を持ちたいって。それでハッとさせられて、俺も野心なくなったな、この5年間でって。

バークリーに行ってた時はもちろんのこと、帰国してすぐも「売れてやる」と思って頑張ってたんだけど、5年経った今そう思ってるかというと全く思っていなくて。日々来る案件をただこなし、生活費を得て、酒を飲み、寝る……っていう生活、たしかに野心ないのよ。榊原くんの話を聞いて、俺もそうだなって思ったわけですよ。

じゃあ何をしようかと思ったときに、帰国してから一度も「自分で」ラージをやったことがないなと。人に呼んでもらったり、人に頼まれて譜面を書いたことは何度もあるけれど、自分の作った曲がメインの演奏会を一度もしたことがないなと。だってめんどいじゃん。今も超めんどいもん。想像はしてたけど、こんなにめんどいと思わなかったな(笑) とにかく、もう一度あの頃の野心を取り戻すぞということですね。

アメリカで寿司と呼ばれた男、SOUSHI KUBOTA

MM:それで立ち上がったのが「SU-SHI-HO Jazz Orchestra」ということですね。これ、名前の読み方が分からないという声がちらほらあるようですが、正しくは何と読むのでしょうか?

窪田:「スーシーホージャズオーケストラ」ですね。

MM:名前の由来は何ですか?

窪田:僕の下の名前が「そうし」なので、ローマ字で書くと「Soushi」じゃないですか。アメリカの人たちはみんな「Sushi(寿司)」に空目するんですね。お陰様で海外の友達みんなからは「スーシー」と呼ばれてたわけだけど、まあそれが嫌だったかというとそんなに嫌ではなく。

バークリーの最初の授業で一人ずつ名前を呼ばれるじゃん。

先生:John?

John:Here!

先生:Where are you from?

John:I'm from Miami.

って感じで、軽いトークも交えつつやってくわけじゃん。で、僕のターンが来ると。

先生:Next, スーシー・クボタ?

窪田:Here!

で、もう周りがちょっとざわついてるわけよ、「え、スシ?」って。

先生:Where are you from?

窪田:I'm from Japan.

って言ったらもう大爆笑。そりゃそうよ。そんなわかりやすいことないよ、本当に。アメリカのハンバーガーくん、韓国のキムチくんみたいなもんじゃないですか。そりゃもうキャラじゃん。ゆるキャラじゃん。

バークリーでやってた僕の自主企画ライブは"The Rotten Sushi Rebellion"=「腐れ寿司の反乱」っていうタイトルでやってましたし、ちなみに今回の公演のタイトルも"The Rotten Sushi Rebellion of 2023"なんですけど。そんなわけで、寿司っていうあだ名が結構好きだったと。

じゃあ気になるのは「ホー」ですよね。実は「スーシーホー(四喜和)」っていうのは麻雀の役なんですね。しかも役満と言って、非常に点数の高い滅多に作れない役。ちなみに俺もスーシーホー作ったことないんですけど。あと、めちゃくちゃ格好いいんですよ、スーシーホーって。手元に東南西北の牌が全部揃うわけ。今回のバンドのメンバーも14人いるし、麻雀も14の牌を作るゲームだし。ちょうどいいかなということで。

ラージアンサンブルへのこだわり。ストリングスを入れたかったんや!

MM:バンドについてもぜひ詳しく教えてください。メンバーは14人という話だったんですけど、どういった編成なのですか?

窪田:管楽器が5本、弦楽器が4本で、あとはリズムセクションが4人です。管楽器はトランペット、アルトサックス、テナーサックス、トロンボーン、バリトンサックス。弦楽器はいわゆる「弦カル」で、バイオリン2本、ビオラ、チェロ。リズムセクションはギター、ピアノ、ベース、ドラム。そして最後にヴィブラフォンなどですね。

MM:よく知られているトランペット4本、トロンボーン4本、サックス5本みたいなビッグバンド編成とはまた違った趣きのサウンドが聴けそうですね。

窪田:そうなんです。だから「ビッグバンド」とは言ってなくて、「ラージアンサンブル」と呼んでます。ただね、ビッグバンドという言葉はジャズをやっていない人にも知られているのに対して、ラージアンサンブルとか、ジャズオーケストラ、シンフォニックジャズとかのワードってあんまり周知されてないからね。そこはちょっと失敗したね。

MM:この編成へのこだわりなどがあれば教えてください。

窪田:管楽器は最小限の人数でビッグバンド的なサウンドを作ることができる、いわゆる「5ホーン」。で、弦を入れたかったのよ。弦の使い方が好きだし、弦を書く仕事ばっかりしてたから、ちょっと自信もあって。あと日本で一般的なビッグバンドをやってる人は、若手でもいるもんね。僕はストリングスを入れたかったんや。

MM:メンバーへのこだわりもぜひ教えてください。どういう人たちを集めたのでしょうか?

窪田:ホーンは、イケイケの若手。もう本当にみんなすごい大活躍中の実力のある若手プレーヤーという感じですね。ストリングスも実力のある方々なんですけど、特に僕と親交の深い良い人たちにお願いしました。リズムセクションはみんな頼れる兄貴分ですね。一人を除いて年上の先輩です。

まもなく、人生を賭けた初公演へ。

MM:作曲は順調でしたか?

窪田:作っては消し、作っては消し。他の案件の納期もあるから、非常に難航しました。

MM:全曲、今回のための書き下ろしですか?

窪田:そうですね、ただ最低3曲は既存の曲のアレンジをやります。これは、ジャズじゃないジャンルの曲のジャズアレンジとなる予定です。残りの曲は僕のオリジナルです。

MM:とても楽しみです。本日はたくさんのお話ありがとうございました。最後に、公演にあたって窪田さん自身が楽しみにしてること、意気込みなどがあればぜひお聞かせください。

窪田:不安でいっぱいです。人が埋まるかどうか、譜面が上がるかどうか(インタビュー時点)……楽しみでは全くないんだけど、人生賭けてます。ここで上手くいっても、上手くいかなくても、良い思い出にしたいです。

冗談はさておき、ストリングス入りのジャズオーケストラというものがなかなか一般に知られている国ではないので、「新しい編成で、新しい解釈のジャズをお届けする忘れられない夜にしてやるから、絶対こいよな!」って感じです。

***

窪田想士さんが主催するラージアンサンブル公演、SU-SHI-HO Jazz Orchestra "The Rotten Sushi Rebellion of 2023"は2023年10月27日(金)、東京都の江古田にあるライブハウス「Live in Buddy」(江古田BUDDY)にて開催される。現地チケットの予約は特設サイトから可能だ。

特設サイトはこちら

また、本公演はMuseMateによる「駆け付け配信」が実施される。当サイトにてオンライン中継の視聴が可能だ。アーカイブも2週間残すということなので、遠方の方、都合が合わない方は、ぜひ配信で窪田さんの一世一代の大舞台の行く末を見届けてほしい。

視聴・購入ページはこちら

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