10代の人気ミックス師の素顔に迫る! 匿名文化とリアルの現場を渡り歩く新世代に注目
Twitterを活用して1万人のフォロワーを集める「歌ってみた」のミックス師「ねる」さんにインタビュー——次の世代の音楽家を発見したい人や、音楽家を志す人にはぜひ読んでほしいMuseMateマガジンの新シリーズ「ネクスト・ミュージシャンズ」第二弾。Twitterでよく目にする「ミックス師」というフレーズ。インターネットの動画投稿文化に端を発する界隈で活躍する彼らは一体何者で、リアルではどんな音楽活動に取り組んでいるのか。今回は専門学校で音楽を勉強する傍ら、SNSで1万人のフォロワーを抱える人気ミックス師としても活動する「ねる」さんにお話を伺った。
「歌ってみた」のミックスを主に担当。10代で活動を始める。
MuseMate編集部(以下、MM):はじめに簡単に自己紹介をお願いします。
ねる:「ねる」って名前で活動してます。「歌ってみた」のミックス師などの活動をちょびちょびとやってます。
MM:ミックス師としての活動は、インターネット上がメインになるのでしょうか?
ねる:そうですね。Twitterの歌ってみたの界隈で主に活動していて、歌い手さんからの依頼でミックスを担当しています。作品自体はYouTubeやニコニコ動画にアップされるものが多いです。
MM:いつ頃から活動されているのですか?
ねる:いつだったかな……一昨年の7月くらいだった気がします、多分。始めて2年くらい経ちますかね。
MM:なるほど、ちなみに今おいくつでしたっけ?
ねる:今19歳です。
MM:ということは、高校生の頃から活動を始められたのですね。
はじめは打楽器、ドラムの演奏から。軽音楽部時代のPA経験が転機に。
MM:ミックス師として活動を始める前にも何か音楽に触れていたのでしょうか?
ねる:はい。中学校のとき、吹奏楽部でパーカッションをやっていて、高校では軽音楽部でドラムやっていました。
MM:演奏が最初だったのですね。そこからミックスとか、音作りに興味を持つきっかけは何だったのでしょうか?
ねる:高校の軽音楽部でPAをすることがあったんですよね。そこから音響の方に興味が向いて今の活動に至っています。
フォロワー1万人のTwitterアカウント。SNS運用の秘訣とは?
MM:ミックス師として活動されるにあたって、かなり精力的にSNS運用をされている印象なのですが、Twitterのフォロワー数は計画的に伸ばしていった感じでしょうか?
ねる:やっぱり依頼が増えた方が嬉しいじゃないですか。どうやったら増えるかということを考えるとフォロワーは多い方がいいし、パッと見の見栄えもいいので。じゃあフォロワーが増えるようなツイートをしていこうという感じで、どんどんやっていった結果が今ですね。
MM:なるほど、フォロワーが増えるようなツイートというのは、具体的にどういったものなのでしょう? 率直に、伸ばすコツをお聞きしてもいいですか?
ねる:誰に向けてツイートするかにもよりますね。僕だったら届いて欲しい相手は歌い手さんじゃないですか。歌い手さんに役に立つツイート、例えば「マイクの距離はこれくらいで録った方がいいですよ」みたいなツイートをしていって、どんどん”いいね”をもらってフォロワーを増やしていくみたいな形でしたね。
MM:普段、日常のツイートとかもされていますか?
ねる:してますしてます。何かしらためになる情報を適度に出していく感じですね。
MM:ミックス依頼はTwitterからがほとんどですか?
ねる:そうですね、全部Twitterからです。
MM:今や競合もたくさんいるというか、多くの方がTwitterの音界隈にいる中で、見つけてもらえた理由はなんだと思われますか?
ねる:ミックスの上手い下手と、TwitterなどのSNSが上手いかどうかって、別の能力が必要だと思うんです。そこがいい感じに、両方ある程度のことができたのかなと思います。
原曲への”リスペクト”を持ったミックスを。「歌ってみた」ならではのポイント。
MM:ねるさんがミックスにおいて大事にしているポイントは何ですか?
ねる:「歌ってみた」って、基本的には原曲があるじゃないですか。原曲にちゃんとリスペクトを持ってやるようにしています。
MM:なるほど、大事なことですよね。もう少し具体的な話も聞いていいですか? ミックスによって、何がどう変わるのか……。
ねる:「歌ってみた」の界隈って、ちょっと特殊で。ミックスは1をどうやって100に持っていくみたいなところってあると思うんですけど、「歌ってみた」だと部屋鳴りがすごかったりとか、ピッチやタイミングがズレていたりとか、マイナスを1に持っていく作業があって。そこに結構な時間と気を使っていることが多いですね。
MM:プロではなく趣味でやっている人が多いからこその特徴ですね。
ねる:はい。だからまず、メインのボーカルを調整するじゃないですか。そのあとハモリとかもこっちで作っちゃうんです。メインボーカルの音を切り取って、ピッチをいじってハモリにする感じです。
MM:そういうものなのですね! 自分で録っている人も中にはいるのでしょうか?
ねる:少数派だとは思います。
MM:最近の「歌ってみた」って、昔と比べてハモリがちゃんと入ってる人が多い印象だったのですが、ミックス師さんの技術の向上があったわけですね。
ねる:そうですね、あとはピッチ補正のソフトの性能の向上みたいな。
MM:歌い手さん以外のミックスをすることもありますか?
ねる:知り合いのボカロPの曲でミックスを担当したりとか、「ボカデュオ」っていうイベントのためのミックスとか、そういう時は歌だけじゃなくて、各パートをパラでやったりすることはありますね。将来的にはみんなで高いクオリティのものを目指すようなレコーディング、ミックスをやっていきたいです。
専門学校で音楽を学ぶ日々。ミックス師としての経験を武器にスタジオを目指す
MM:なるほど。今回の特集は、学業と並行して音楽活動をされている次世代のミュージシャンを取材するという趣旨なのですが、ねるさんは今19歳で、現役の学生さんなんですよね?
ねる:はい。音楽系の専門学校に通っています。
MM:Twitterを見る限り、かなり依頼を抱えていらっしゃると思うので、なかなか忙しそうですよね。時間のやりくりはどうされていますか?
ねる:専門学校って結構暇なところが多いと思うんですけど、僕の場合も実質登校するのは週2日みたいな感じなので(笑) それでも、学校以外の時間のほとんどをミックスに割いている感じです。
ねるさんの仕事場。数々のミックス作業がここで行われている。
MM:専門学校卒業後の進路はどう考えていらっしゃいますか?
ねる:そうですね、ちょうど今就活の時期なんですよ。今はレコーディングスタジオのアシスタントとかをメインで探していて、そっち方面で仕事ができればと思っています。
MM:エンジニアになるにあたって、これまでのインターネットでの活動や経験はプラスになりそうですか?
ねる:あんまりマイナスになるということはないと思うんですけど、一個あったのはVtuber系の事務所からの「歌ってみた」のミックスやレコーディングの募集を見たことがあって。そういうものだと役に立つのかなとは思いますね。
MM:確かに、今だと近い領域の仕事もありますもんね。まだお若いのに技術もあって、SNSもしっかりプロフェッショナル的な運用をされていると思うんですけど、なぜそんなにしっかりしているのですか?
ねる:どうなんでしょう……(笑) 一つ大きかったのは、今ってDiscordとかでいろんな人と話せる機会が多くて。中学・高校の頃、「Among Us」っていうゲームをよくやっていたんです。議論する系のゲームなんですけど、年上の人と話す機会が多くて、自分も多少成長できたのかなと。周りの環境に影響されるって結構大きいと思います。
先生との出会いは学校よりインターネットが先? 匿名文化の「現在」とは。
MM:「歌ってみた」の界隈って、匿名の文化が強いと思うのですが、ねるさんもハンドルネームで活動されていますよね。オンラインとリアルのリンクのさせ方や、切り分け方があればぜひ教えてください。
ねる:基本的にはネットでもリアルでも好きなことをやっているだけなので、切り分けるという発想はないですけど……ツイートするときにどうやったら伸びるかというのは多少考えてはいます。
MM:発信する立場としての最低限のブランディングといったところですかね。アイコンも二次元で、キャラクター性がしっかりしていますよね。
ねる:アイコンは周りに合わせたところが大きいですね。有名なミックス師さんがみんな二次元のアイコンだったので。
リアルの活動はミックス師を始めてから結構減ってきていて、ネットで繋がった方とリアルで一緒に行動するということはすごく増えたんですけど……そっちが増えすぎて(笑) 今通っている専門学校の先生とも2人、学校で出会うより先にTwitterで出会ってるんですよ。
MM:それはすごい(笑) ちなみに「ねる」という名前の由来もお聞きできますか?
ねる:中学生のときに決めたのであんまり覚えてないんですけど、特に深い意味は無くて、ゲームをやってた時の名前が「ねる」だったんです。多分眠たかったんじゃないですかね(笑)
MM:もし、ねるさんにミックス頼みたいとか、一緒に仕事したいと思ったらどこをチェックしたら良いですか?
ねる:Twitterの固定ツイートにしてるんですけど、僕のホームページがあります。そこのホームページから依頼してもらったら大丈夫です。細かいことはTwitter見てもらえたら一番早いかと思います。
MM:今後もしばらくはミックスしとしての活動を継続される予定ですか?
ねる:そうですね、続けたいなとは思ってます。ただ就職した場合は環境次第なので、そこは何とも言えないですね。
MM:ありがとうございます。最後に、これからミックス師としての活動を始めたい人に何かアドバイスがあればぜひお願いします。
ねる:Twitterの重要性に気づいていない人が多いような気はしますね。例えばミックスの依頼が欲しいのに、APEXの画面ばっかり上げてても依頼は来ないので。僕も分けれていない部分はあるんですけど、依頼が欲しいのであればしっかり頑張った方がいいと思います。
MM:ありがとうございました。我々もTwitter運用頑張ります(笑)
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匿名で気軽に音楽活動ができる「歌ってみた」や「ボカロP」といった文化。趣味を突き詰めるコミュニティとしての価値が醸成されている一方で、10代からインターネットを通じて経験を積み、やがてリアルで音楽家として現場を担っていくという次世代のあり方の一端が見えるインタビューとなった。
精力的に活動するミックス師として、そして未来ある若い音楽家としてのねるさんをこれからも応援していきたい。
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