今すぐできる!コードとメロディから弦楽四重奏を作ってみよう
誰もが知っているあの曲を題材に、初心者向け編曲講座をお届け!――2022年3月に行われたKo Tanakaさんによるウェビナー『実演!Ko Tanakaによる弦楽四重奏・管楽器編曲の手引き』より無料部分を記事に起こした。講師のKo Tanakaさんは劇的茶屋”謳う死神”、西野亮廣演出ミュージカル”えんとつ町のプペル”など国内外のミュージカル作曲、さらにはジャニーズグループアリーナコンサートのOverture作曲を手掛けるなど、文学的な音楽表現の探求力と職業作曲家としての確かな実績を併せ持つ稀有なクリエイターだ。
まずはじめに今回のゴールを
弦楽アレンジをやってみようということで、今回は2パターンのアレンジを紹介しようと思います。
ひとつは、何ら間違っていないんだけど、「なんかこれでいいのかな」みたいな感じがしてしまう編曲。もうひとつは、これくらいまでなら考え方次第で拡張することができますよというパターンです。
最初に結論をお見せすると、これがパターン1
何ら間違ってはいないんですけどね。
次にこれがパターン2
メロディは有名な『大きな古時計』ですね。シンプルだけど良いメロディがあって、コードもついていて……というのを、さあ弦楽器にアレンジしようと。
今回はヴァイオリン1、ヴァイオリン2、ヴィオラ、チェロ。弦楽四重奏というやつにしていきます。 「コントラバスいないの?」と思う方もいるかもしれないですが、もっと大きな編成――オーケストラのストリングスセクション的な――弦五部の編成になるとコントラバスもいれるんですけど、コントラバスは基本的にチェロの1オクターブ下をやっていることが多い。だから、チェロまで組むことができればコントラバスは攻略できます。
1)原型、メロディラインとベースライン
原曲のメロディに対して、よく耳にするパターンのコードをつけたものを題材にしてやっていきます。
まずはメロディと、ベースそれぞれ1本だけの状態で聞いてみましょう。
ここをスタートにしてものを考えていきます。
2)パターン1のアレンジ
ピアノ譜の作成
次に、ピアノ譜のなかでアレンジの形を作っていきます。
今回はすごくシンプルに、「ずん、ちゃん、ずん、ちゃん」と和音を付けたらどうなるだろうというの作ってみました。
ここの伴奏の形だけでも無限の可能性があります。ここで決めたピアノ譜を受け継いでストリングスアレンジにいきます。 よって、ここで生まれた印象はそのまま弦のアレンジにしても起こるというのが前提です。
弦楽器に割り当て
次に、これをどういう風に弦楽器に割り当てていくかをやっていきます。 一番簡単かつベーシックかつ奥の深いやり方は、チェロにベースをやってもらい、ヴァイオリン1番にメロディをやってもらい、残りのヴァイオリン2番とヴィオラにコードをやってもらうパターンです。
さきほどのピアノ譜を、ベース+和音+メロディという3つのセクションに分解してみます。
あとはこれを割り当てていきます。ベースをチェロに、メロディをヴァイオリンの1番に。
次に真ん中の和音ですが、ピアノ譜から別の楽器にオーケストレーションする際に気を付けることとして「音域」があります。この場合、和音の下の音はヴァイオリンでは出ない音域ですから、必然的に上の音をヴァイオリン2番、下の音をヴィオラに担当させます。
すると、こんな感じでできましたよ、と。
一番ベーシックで、間違いもなく、出ない音域もなく、それぞれのパートがちゃんと仕事をしているアレンジができました。
……が、何かもう一歩行ける気がするなと思う時があるんですね。
そういう時のためにもうひとつ別のパターンも紹介しておきます。
3)パターン2のアレンジ
先ほどは、メロディラインとベースラインがあって、それに対して和音を付けるという工程をやりましたが、ひとつこのやり方の持っている性質として、ちょっと”窮屈”ということがあるんですよね。
ピアノ譜の再作成
というわけで今回は、ピアノ譜の段階でこんな感じに編曲を変えてみます。
今回の例では、メロディを完全に1オクターブあげました。
その結果間に現れた空白に対して、ベース+2音という音数はそのまま、和音をオープン気味に入れてみました。
ちなみに、このときに和声法を知っていると有利です。ポピュラーの編曲で必要以上に気にしなくても大丈夫ですが、ボイスリーディングを意識してやれると良いと思います。
さて、さっきのピアノでラクに弾ける形はベーシックかつ少し窮屈な感じですが、今回はピアノ譜の時点できれいに開いたなという印象があると思います。編曲をするときは、ピアノ譜の時点でどれくらい窮屈にするか、重たくするか、軽くするかなどの印象を作っておくことが重要です。
弦楽器に割り当て
上の譜例で赤く色づけしていた音符が、和音のセクションですね。わざわざ書かなくても分かるとは思いますが、一応先ほどと同じように3つのセクションに分解してみます。
これを先ほどと同じようにそのままストリングスセクションに持っていくとこうなります。
さっきとは随分印象が違いますよね。これは良い悪いではないのですが、とにかく”違う”。
良くも悪くもひとつめの例は狭い印象になるけれど、自分が狭い感じ、個人的な感じとか、まだ何も発展していないような世界観を音楽で出したい時はこちらを使うのもアリだし、いわゆる弦楽アレンジの広がりとか、天使のような感じを出したい時はピアノ譜の時点でオープンなものを作っておくといいですね。
4)さらに細かい動きを足して
続いて、ここにちょっと動きを付け足してやることで、より弦楽らしいアレンジにしていきます。
ここでは、大きく分けてふたつのコンセプトがあります。
ひとつはベースラインを見るとわかりやすいですが、2度以上の幅を見つけたときに、間に階段を作ってあげる。これによって音楽がスムーズになります。
もうひとつは、音を保留させるということです。
白玉だけだと、場合によっては何かノリが違うというか、シンセパッドでジャーンと弾いているような、絶妙な安っぽさを感じてしまう場合があります。
ひとつひとつのパートを独立させて聞かせると、弦楽らしくなります。
それを白玉の楽譜からどうやって発想していくかと言うと、誰かが喋っているときに他の誰かが同時に動かないようにしながら、ひとりひとりの活躍の場が上手く分離するように作ってやる。そうすると、独立性が出て弦楽らしいサウンドになります。
それでは、改めて完成形を聞いてみましょう!
今回は、弦楽の作り方の本当に無限にあるうちの一例を紹介しました。何か参考になれば幸いです。
続いては、この話を踏まえたうえで、弦ではなく管楽器の話をしてオーケストラアレンジに繋げていきたいと思います。
5)管楽器アレンジ~簡単なオーケストラへ
続きはこちら! ウェビナーの後半では(46分以降)、木管セクション(フルート、オーボエ、クラリネット、ファゴット)、金管セクション(トランペット、ホルン)、ティンパニを加えて簡単なオーケストラアレンジにするところまで解説しています。
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