アンプの音検証で話題! YouTubeで唯一無二の”番組”を配信している二人組の正体とは?
アンプ修理専門店と映像制作のプロがタッグを組んだ、バンドマン必見のチャンネル「ドクターMUSIC」インタビュー——音楽系YouTubeチャンネル群雄割拠の時代、出演者の独自性とテレビ番組のような編集で一際異彩を放つチャンネルがあった。 特集「音楽家のYouTube活用」5回目となる今回は機材の紹介を中心に、その専門的な内容が人気のYouTubeチャンネル『ドクターMUSICチャンネル』に迫る。 チャンネルを運営する名古屋のギターアンプ修理専門店「ドクターMusic」の店長・藤原暁也さんと、映像制作会社「REAR GEAR WORKS」の代表・蟹江崇洋さんにお話を伺った。
「先輩に機材の話を聞ける場」をネット上に。蟹江さんの発案でチャンネルが始動
MuseMate編集部(以下、MM):まずはお二人の自己紹介をお願いします。
藤原(モージー):ギターアンプ専門店「ドクターMusic」の店長「モージー」こと藤原と申します。 よろしくお願いします。
蟹江:映像制作会社「REAR GEAR WORKS」代表の蟹江です。 映像制作を始めて約3年となります。 よろしくお願いします。
MM:YouTubeチャンネル「ドクターMUSIC」とは、どのようなチャンネルなのでしょうか? また、普段どういった内容の動画を出していますか?
蟹江:僕はもともとバンドマンで、ライブハウスの店長もやっていました。そこで周りのバンドマンや先輩に音楽や機材の話を聞いていたんですけど、コロナ禍でそういった機会がなくなってしまったんです。そんな時に、アンプや音のことをもっと気軽に知れるチャンネルがあったら面白いなと思って始めたのがこのチャンネルです。
名古屋でも有名で長い歴史のある、老舗アンプショップ「ドクターMusic」の店長・藤原さんはバンドマンとしての先輩で、お店とも付き合いがあったので、僕の方から「こういうのやりたいんですけど、どうですかね?」と話を持っていきました。藤原さんから「面白そうじゃん、いいよ」とお返事をいただいて、社長さんなど関係者の方々も皆さんOKしてくださったんです。そこからチャンネルが始まり、現在はお店に並んでいるアンプなど、機材メインで取り上げています。
MM:チャンネルを見ると、アンプの「音検証」動画が人気のようですね。
蟹江:今はそうですね。最初の頃はもっと初心者向けにいろんなことをやっていたんですけど、何せ試行錯誤だったので映像が微妙だったりするところも結構多かったんです。そこも含めて見直して、もう一度初心者向けコンテンツもいくつか出していきたいなとは思っています。
”逆勧誘”により始まったお店の公式YouTube。蟹江さんがドクターMusicに感じた魅力とは?
MM:チャンネル名はモージーさんが店長をされているお店の名前からきているのですよね?
蟹江:そうですね。
MM:ということは、メインがモージーさんという感じでしょうか?
蟹江:そうですね。名前を決める時もこれといって何もなかったので、お店の名前が一番わかりやすいんじゃないかという、ふわっとした感じで決まった気がします。
MM:すると、お店の公式チャンネルということになりますか?
藤原(モージー):まあ事実上公式チャンネルだよね。もともと僕はドクターMusicの店の人間で、「うちの店でチャンネルやりましょう」と持ちかけられたので、まあ公式ですよね。
本当は僕から蟹江くんの方に「こういうことやりたいんだけど、映像やってくれない?」って話をしても良かったんだと思います。でも蟹江くんが映像チームをやってることも知らなかったし、それで”逆勧誘”をしてもらう形になって、「じゃあ面白いし、やろうか」という感じで決まりました。
MM:なるほど。蟹江さんにお伺いしたいのですが、逆勧誘のような形でお話を持ちかけるくらい、やはりお店やモージーさんに魅力を感じていたのですか?
蟹江:まさにそうです。チャンネルで何をやるかって考えた時に、狭いところ、ニッチなところに僕は行きたかったんですが、自分の知識だけでは無理だというのが最初からわかっていたんです。そこで、アンプなどの機材に詳しいモージーさんに、初心者の僕が色々聞くという構図を作るのがいいと思い、話を持ちかけました。
MM:この話を持ちかけられた時、モージーさんは即答だったのでしょうか? それとも結構悩みましたか?
藤原(モージー):僕は割と用意周到というか、先のことを色々考えながらやる・やらないの判断をするところがあるんだけど、この話を持ちかけられた時は、ばばばっと頭の中に映像が見えてきたんです。「あ、これ面白そうだな」と直感的に思うときって大体そうで。
その先がどうなるか全くわからないというよりは、「こんなふうになっていくと面白いよね」という青写真が見えたので、やろうと思いました。そうじゃなかったらOKしなかったと思うし、迷っていたかもしれないですね。たぶん、僕もやりたかったんだと思います。
MM:なるほど。心のどこかでやりたい気持ちがあったわけですね。
藤原(モージー):はい。実はYouTubeチャンネルをやる何年も前に、インターネット上でそのような番組を持っていたことがありまして……。 とあるネット番組の中でドクターMusicのコーナーを作ってもらい、やっていた時期があったんですよ。それの名残が白衣を着ているやつです。当時は深夜救急ナントカという名前で、楽器のお医者さんとしてバンドマンの子達が悩んでいること、困っていることを解決するという番組でした。
チャンネルのヘッダー画像にも使われている2人をデフォルメしたキャラクター。たしかに白衣を着ている。
広告収益より大切なのは、お店に人が来ること
MM:チャンネルがスタートしたのはちょうど1年前くらいでしょうか?
蟹江:そうですね。2022年の4月1週目の土曜日、年度はじめの4月からいきましょうということで始まりました。そこから1年1ヶ月経ちましたね。
MM:(収益化のボーダーである)登録者1,000人達成まではどれくらいの期間があったのでしょうか?
蟹江:収益化したのがその年の11月なので、7ヶ月でしたね。
MM:収益化までは、結構苦労されましたか?
蟹江:どうですかね。編集の担当が僕で、毎週1本ずつ上げていき、1年間はやりたいと決めていました。モージーさんもそれに付き合ってくれるってなって。喋りの部分はもう本当にモージーさん任せになっていて、僕が「どうなんですか、このアンプの魅力は?」と質問して、詳しいことはずっとモージーさんが話してくれるんですよ。なので、僕は編集の方で大変でしたね。収益化するまでも、これからも。
MM:チャンネルをスタートしてから約1年が経って、現在の登録者数は2,500人くらい。手応えとしてはどうですか?
蟹江:僕自身はもう狙い通りで、1年間でチャンネル登録者数1,000人を目指したいと思っていました。僕らのやる目的としては、収益ももちろんそうなんですけど、ドクターMusicさんのお店に人が行かないと意味がないと。YouTubeの広告収益は確かにもらえるようになったのでもらうんですが、ドクターMusicさんのところに「見ましたよ」とか「あのアンプまだ置いてるんですか?」というような話が来たら最高だなと思っています。
裏テーマとして、僕の中では”番組制作”をやりたかったというのもありました。YouTube上で番組を作る、そしてその番組を誰かとやる……じゃあ何のネタが良いかということを考えたときに、ずっと培ってきた音楽のことで頼れる先輩がいる場所「ドクターMusic」が真っ先に思いつきました。最初は本当に、収益は一旦度外視で動き出した感じですね。
プラスであり、プレッシャーも。チャンネルを始めて訪れた嬉しい変化
MM:お店としても、チャンネルを始めてから何か変化はありましたか?
藤原(モージー):最初のうちは撮るのが精一杯ですよね。どんなネタを、どんなテーマで、どうやって喋ろうかと。脚本も何もない状態でその場で決めてフリートークのような感じでやっていたので、もう試行錯誤の繰り返しで、お客さんが増える・増えないということよりも、ちゃんと番組として成立するようなトークをすることで精一杯でした。
ただ蟹江くんと僕はもともと、ライブ終わりにみんなで飲んで馬鹿話ばかりしていた仲なので、トークの相性が良かったんですよ。台本なしでも喋れるということがわかって、トークも軽快になってくると、楽しく動画を観てくれる人がどんどん増えていったんです。
最終的には今みたいに観てくれたお客さんがお店に来てくれたり、メールで商談やお問い合わせをしてくれたりという効果が生まれています。
MM:ということはズバリ、お二人にとってプラスになっているということですね?
蟹江:そうですね!
藤原(モージー):プラスであり、プレッシャーもあるね。
蟹江:やっぱりアンプの解説となると、何年に出たとか細かい数字を気にされる方が多い世界なので……。今は視聴者さんにそんな悪い人はいないですけど、これから登録者数が増えていくとそういう人は絶対に来ると思うので、そこら辺のプレッシャーはどちらかというとモージーさんの方が大きいかなと。やっぱりお店を構えていますし、そこに迷惑がかかって欲しくないというのはずっと思っています。
MM:よくわかります。そういう難しいお客様への懸念とかは、モージーさん的にはどうですか?
藤原(モージー):いや、常に難しいお客様を相手にしてますから(笑)
毎日本当にマニアックなお客様が……うちの店がプロショップという名前をつけちゃってるというのもあるんですけど、ニッチでマニアックな細かい部分で深掘りをしたがるようなお客様と日頃接しているので。
MM:その辺りは慣れておられるのですね(笑)
数字よりも自分だけのコンセプト。やりたいと思ったらどんどんやるべき
MM:YouTubeの参入としては割と遅めというか、コロナ禍も落ち着いてきて比較的最近始められた方かと思います。そこから1年やってみた印象としては、これからYouTubeをやってみたいと思っている人に対して、もしやるならこういうやり方がいいんじゃないかなど、何かアドバイスはありますでしょうか?
蟹江:今はみんなiPhoneなどを持っているので、動画を撮るためのものはそんなに良いものじゃなくても、何かちょっとやりたいと思ったら、お金をかけない範囲なら僕は全然やるべきかなと思います。例えばiPhoneだったらiMovieが最初から入っていますし。
例えばYouTubeばかりで僕の仕事がおろそかになってしまったり、ドクターMusicさんの本業に支障が出てしまったり……まずないと思いますが、そうなってしまった段階でYouTubeはやめていいと僕は思っています。ドクターMusicさんはあくまでお店があって、そこに来るお客さんがいる。YouTubeは二の次で、僕もそのつもりで動いています。
ただやっぱり、ネット上の普段目に見えていない人たちから求められて楽しいと言ってもらえると、それが勇気に変わってくるので、お金をかけないで簡単にできることはすぐにでもやったら? と僕は思いますね。ダメかどうかはやってみてから考えれば良いんじゃないかと。
藤原(モージー):僕はもともとYouTubeを見ないんですよ。YouTuberと呼ばれる人もほとんど知らないんです。興味がなくて(笑)
YouTuberとして有名な方がたくさんいると思うんですけど、何十万人フォロワーがいるとか、数字でイニシアチブを取って動いてらっしゃる方も多いと思うんです。世の中にはいわゆる視聴者数を稼ぐためのコンテンツもあれば、特定の内容をもっと深く掘り下げていくようなコンテンツもある。コンテンツのタイプって色々あると思うんですけど、僕らの場合はテレビ番組のようなことをやっていきたいですね。
蟹江:テレビショッピングみたいになってますね最近(笑)
藤原(モージー):そう。もっとYouTubeちゃんと見ろって言われそうだけど(笑)
蟹江:テレビで例えるなら、モージーさんはどちらかいうとタレント側なので、僕ら編集側がモージーさん達のやりやすいようにするのが一番良いかなと思っています。編集のことや、その後のことを考えるのは僕らで良くて。映像の中の大事なところでガツンとやっていただければ、後のことはこっちに任せてくださいという感じです。
藤原(モージー):新しくYouTubeをやりたいという人は、技術的なことで言えば、iPhoneで簡単にできる時代じゃないですか。
さっき言ったコンテンツの中身という点ではどうなのかというと、ペラいやつをサラッとやって、サッとやめていく人もいますよね。だけど自分の伝えたいことを、もっと深掘りしたい人に向けて提供するようなものがあると尚良いなと思います。ちゃんとコンセプトを決めてやった方が長続きするのかなと。その方が観てくれる人も、リピーターが増えるんじゃないかと思います。
MM:広告収益だけで生きていこうとすると、みんな同じフォーマットのサムネイルを作って「こういう編集をすると視聴維持率が上がって広告単価が……」というように、みんな同じようなことをやっちゃうと思うんです。でもお二人のように他でちゃんと事業があって、その一環としてYouTubeを利用するというのは、これからの時代もいろんなやり方があり得るんだろうなと思いました。
藤原(モージー):そうそう。「稼がなきゃ」という変なバイアスがかかっちゃうよね。そうやって作られたコンテンツを、もう一般の人たちが見透かしているのは確かで、でもうちの場合はあまりそのように感じないと言われます。他と違って「面白いね」と言われるのはそこだったりします。
MM:なるほど、いい話ですね。
蟹江:モージーさんって、僕よりも20歳くらい上じゃないですか?
藤原(モージー):そんなでもないぞ(笑)
蟹江:それくらい上の先輩に僕がこんなにフランクに楯突いて、動画内でもしょうもないことでいじって……というのを許してもらっているが故に、見てて面白いって思ってる人もいるのかもしれないですね。
藤原(モージー):まあ別に楯突いたとか何も思ってないけどね(笑) ツレみたいな感じで喋ってるから。
蟹江:ありがたい話です。僕らは数字でイニシアチブは取りたくないんですけど、今は数字も多少持っていないと戦えないじゃないですか。チャンネル登録者数が1万人も行っていないと、やりたいことが叶えられないとか。それは嫌だなと思っています。
この前モージーさんと、日本に入ってきていないアンプを紹介できないかという話をしていました。そういうものって結構あるんですよ。個人で直輸入できるんですけど、例えばそういうものを「紹介したいから一緒にやりませんか?」とメーカーさんに提案できる立ち位置まで持っていけたらと。こちらから一方的にお願いする感じではなく、向こうも面白いなと思ってくれるような良い塩梅で新しいことができるんだったら、そのための数字も伸ばしていかないとと思いますね。
MM:ある種の名刺になりますもんね。
蟹江:そこはそうですね。
海外もターゲットにしていきたい。「ドクターMUSIC」チャンネルの今後
MM:今後の目標はなんでしょうか? 近いところで言うと登録者数や撮りたい動画など。読者みんなで応援していければと思います。
藤原(モージー):うーん、今の所結構順調に達成している気がしますね。登録者数はなだらかに増えているんだけど、意外と過去の動画を何回も見てる人が結構いるようです。だから残ったコンテンツが腐っていかないというか。僕らの動画は何ヶ月後で見たとしても新鮮に、しかもわかりやすく説明ができていると思ってるので、そういうのを積み重ねていきたい。新しいテーマや飛躍的に伸びるようなネタを投下しないと登録者数が減ってしまうというチャンネルではないと思うので、じわじわ積み重ねていくことの連続で良いんじゃないかと思います。
蟹江:僕は最近、海外の人にもっと観てもらえるようなチャンスをずっと考えていて、それをこの1年で叶えたいなと思っています。ギターひとつとっても、やっぱり日本のギタリストの人口を拾いに行くよりも、世界でみた方が圧倒的に数も多いですし、ニッチなチャンネルが故に、たまに外国人の方が「楽しそうな日本人がいるなあ」とコメントをくれるんですよ。それが結構嬉しくて。だからそんなふうに外国人をターゲットにしたり、逆に日本人の方には日本に入ってきていない海外のアンプを知ってもらったり……そんなことをゆっくりでも良いからやっていきたいですね。
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音楽にかける情熱、そして「ドクターMusic」という魅力手なお店への想いがとても強く感じられるインタビューとなった。音楽家なら誰しも一度は悩む「機材」について深く解説している貴重なチャンネル。海外との交流も視野に入れて成長していく未来が今から楽しみだ。
【Infomation】
YouTubeチャンネル「ドクターMUSIC」
藤原(モージー)さん、蟹江さんのお二人が運営しているチャンネル。ギターアンプをメインに、機材の選び方や楽器のメンテナンス方法を紹介している。
AMPLIFIR PRO SHOP「ドクターMusic」
藤原さんが店長を務める名古屋市守山区のプロショップ。中部地区唯一のギターアンプ修理専門店。
「REAR GEAR WORKS」
蟹江さんが代表を務める映像制作会社。番組やPV制作などを受け付けている。
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