「SNSで発信しているからこそ生ライブの良さを感じる」クラリネット奏者Akaneさん、躍進の理由
総フォロワー数21万人を超えるAkaneさん。オンライン発信への向き合い方、そして生演奏家としての想いを直撃した。特集「音楽家のYouTube活用」。第4弾となる今回は、SNSの総フォロワー数が21万人を超える次世代のクラリネット奏者、Akaneさんへのインタビューを敢行した。YouTubeだけでなく、TikTokや、さまざまなライブ配信アプリも使いこなす一方で、「生演奏」を届ける音楽家としても躍進しているAkaneさん。音楽活動にかける想いや工夫を存分に伺った。
MuseMate編集部(以下、MM):まずは簡単な自己紹介をお願いします。
Akane:クラリネット奏者のAkaneです。 私は「心に寄り添いエールを届ける」をテーマに活動しています。 主にポップスのライブ活動や、TikTok、YouTubeなどの動画投稿、あと最近はPocochaも始めて、リアルとオンラインの両軸で活動しています。
クラシック専攻の大学時代から一転、現在はポップスがメインとなる演奏家に
MM:これまでの音楽歴についても簡単に伺ってよろしいですか?
Akane:クラリネットは中学1年生の部活体験から始めました。本当はサックスがやりたかったんですけど、クラリネットになってしまって。でも、なったからには誰よりもうまくなりたいと思って練習を頑張った結果、中学3年生の時に、講師の先生から音大を目指してみないかと言われ、それで「私って才能あるのかも」と調子に乗って音大を目指すことになりました。
高校は東海大学菅生高校という吹奏楽の強豪校に入学して、部活とレッスンの両立をできないなりにもやっていました。 目指している音大が東京藝術大学だったのですが、現役では合格できなくて、心を病みながらも一浪して再受験しました。 2回目の芸大受験でも合格できなかったのですが、それでも音楽の道を諦めきれず、国立音楽大学に入ることになりました。そこから更にクラシックを勉強し始めました。
MM:現在はポップスをメインに演奏しておられますが、クラシックのお仕事をすることもあるのでしょうか?
Akane:今はクラシックはやっていなくて、がっつりポップスですね。あとはオリジナル曲と、まだまだなんですがジャズにもチャレンジしています。
SNSを始めた時はクラシック奏者だったので、自分が将来ポップスでライブ活動をするとは全然思っていませんでした。
ですが、その頃からオールジャンルセッションなどに誘われて行くようになり、ポップスに触れてはいたんです。 「黒本」(『ジャズ・スタンダード・バイブル』/リットーミュージック)とか、そういう文化にも触れて、純粋に楽しいなと思いました。 「楽譜通りやりなさい」という感じじゃなかったので、自分の「こうやりたい」が許されるのが楽しかったです。
初めて行ったライブハウスが転機に。キラキラ輝いて見えたバンド演奏
MM:本格的にポップスのクラリネット奏者として活動をしていく転機となった出来事はありますか?
Akane:フルートのarisaさん(YouTubeチャンネル)と仲が良くて、彼女のライブを聴きに行ったんです。初めてのライブハウス、初めてバンドでインストの演奏をしているのを見た時に、それがキラキラ輝いて見えて。衝撃を受けたと同時に、「私はクラシックよりもこういったライブ活動の方が心の底から楽しんで、お仕事として音楽をやっていけるんじゃないか」と思いました。
SNSでポップスを吹いていたので、ここと合致するんじゃないかと思い、ポップス演奏の路線に切り替えました。
大学時代、まだ周りの誰もやっていない状況の中始めたTikTok
MM:SNSでのご活動は、いつ頃から始まったのでしょうか?
Akane:大学3年生くらいの時に、今後の進路を考えるようになりました。周りの他の大学の音楽家さんがライブ配信をやっていたり、SNSやYouTubeをやっていたり。そういうのを拝見して、私も何か、まだ私の周りの誰もやっていないことを、私が先にやったら何か面白いことができるんじゃないかなと考えました。
結果、当時音大生すら誰もやっていない、本当に私が初めてくらいのタイミングでTikTokに参入したんです。そこに動画を出していったら、どんどんフォロワーさんが増えていき、ちょうどコロナの時期と被った4年生の時に毎日のように投稿していった結果、ありがたいことにたくさんのフォロワーさんに恵まれました。
音大を卒業する頃にはTikTokが15万人くらい、YouTubeが2万人くらいまで登録者数が増えていました。
海外向けを意識したアニソン演奏。ドカンと再生が回り始める
MM:TikTokのフォロワー数は現在17万人くらいまで増えていますが、伸び始めたきっかけは何だったのでしょうか?
Akane:TikTokだと、当時は割と普通に吹いているだけでも中高生の吹奏楽部の子達を中心に「上手な人がいる!」と興味を持ってくれていたんですけど、だんだん同じことをする人が増えてきて珍しく無くなってしまったので、一度海外向けに振り切ったんです。 その時海外で流行っている曲をやったり、アニメって世界共通なので、アニソンメドレーを演奏したりした結果、ドカンと再生が回るようになりました。 そしてそれをYouTubeに転載していったら、YouTubeのショートでも沢山再生して頂けて……それでチャンネル登録者数が伸びたという感じです。
「とにかく私のことを知って欲しい!」認知目的でアップし始めたショート動画
MM:YouTubeを始めたのは、TikTokよりも後ですか?
Akane:TikTokは大学3年生の5月頃から始めたのですが、その当時は本当にたまに、2ヶ月に1回更新する程度だったんです。
その後4年生に上がる前の1月、春休みの時期からYouTubeチャンネルも開設して、TikTokもそれと同じタイミングで、より頑張り始めたみたいな感じです。
MM:なるほど。TikTokやYouTubeのショート動画として公開される短い動画と、YouTubeに通常投稿されている長い動画がありますが、それらの使い分け、両立のさせ方について伺ってみたいです。
Akane:最初はTikTok用に動画を作って、それをすべてのSNSに転載してました。 YouTubeだけでなく、Instagramのリール、LINE VOOMなどに転載して、「とにかく私のことを知って欲しい!」「誰かに見つけて欲しい!」みたいな感じで、認知目的でやっていました。
長い動画に関しては、「演奏してみた」と言うジャンルが結構昔からあって、その流れで最初の頃は私も演奏してみた動画をたくさんあげていました。今はちょっと違うんですけど……。
大ピンチ、ライブ1週間前に予約が1人だけ!「演奏動画を出しても集客にならない」
Akane:昔は演奏してみたをメインで上げつつ、質問コーナーなどの喋る動画を何かの記念の時に出したりしていたんですけど、最近は演奏してみた動画を上げなくなってしまって。実はもう半年くらい上げてないんですよね。
演奏動画を出しても集客にならないということに気づいたんです。SNSからライブに足を運んでいただくためには、演奏を無料で聴けるから聴いてくださるような浅い関係ではなくて、私の内面をより知ってもらったり、ライブの映像を実際に見てもらうことが大事だと思ったんです。
MM:なるほど。「演奏動画を出しても集客にならない」という部分について、何か具体的なエピソードがあればぜひ教えていただけますか?
Akane:初めてワンマンライブをやることになった時、25名くらい入る会場を予定していたんです。
SNSにフォロワーさんがいるから「告知したらきてくれるでしょ」という甘い考えのもとやったら、全然お客さんが集まらなくて…。
本番1週間前の時点で予約が会場1人、配信2人という感じだったのですが、これって結構ヤバいじゃないですか。泣きそうになりながら、「どうしよう、もう音楽を仕事にするの辞めてしまった方がいいんじゃないか」とも思いました。
それで、これがラッキーなのか悪いことなのかわからないんですけど、家庭内でコロナっぽい症状の人が出てしまったんです。当時は世間もかなりシビアだったので、いろいろ相談して1ヶ月後に延期することになったんですけど、その1ヶ月チャンスだから新しいことを始めた方が良いと思い、初めてライブ配信を始めました。
配信で内面を知ってもらうと、ライブにもお客さんが来てくれるようになり、YouTubeもそうした方がいいのかなと思って、本音を話したりとか、ライブの裏側を見せる動画を公開したりだとか。
「バスクラを紹介して欲しい」というお仕事をいただいたこともありました。周りの仲間とか、クラリネットに関係している人とコラボして編集して……というのが今の状況です。
MM:動画の編集はご自身でされているんですか?
Akane:そうですね。オリジナル曲のMVや山口めろんちゃんとのコラボ動画は作ってもらいましたが、基本的には、全部私がやっています。めっちゃ大変です!(笑)
「現実逃避したい時はアニメを見てる」動画ではコスプレも
MM:YouTubeではアニメソングの演奏動画が多いですが、元々アニメがお好きなんですか?
Akane:そうですね、元々アニメがめちゃめちゃ好きで……「現実逃避したい時はアニメを見てる」みたいな感じです(笑)
MM:アニソン動画のサムネイルではよくコスプレをされていますが、これも好きだから苦労なくやれてるという感じですか?
Akane:『進撃の巨人』のミカサは買ったコスプレを着ていたり、クラリネット奏者のマリィ凛さんとコラボした「曇天」はマリィさんから『銀魂』の神楽ちゃんの衣装やウィッグをお借りして慣れないカラコン入れて撮影しました!
MM:コスプレなど、動画のサムネイルを見てもわかる通り、自分を表現するのがとても上手だと感じます。昔からそうだったのでしょうか? それともオンラインで発信するようになってからなのでしょうか?
Akane:普段は私服とか結構どうでもよくて、ネットで活動をするからこそという感じです。大学では、見た目にあまり気を使ってなかったタイプなので。動画の時は、見てもらうからには少しでもいいものをと思ってやっています。
SNSでの発信は目的に合った使い方が大事
MM:ここまでお聞きしてきたように、SNSでたくさんのフォロワーを抱えているAkaneさんですが、ネットで発信することに対して、どのようにお考えでしょうか?
例えば、音楽家の後輩たちにも是非やって欲しいと思いますか? それともこれは、Akaneさんご自身だからこそ確立できたスタイルなのでしょうか?
Akane:うーん、人それぞれだと思います。ネットで発信することの良さは、すごくあると思っています。ですが、やってて学んだんですけどただ単に演奏動画を出してるだけじゃ正直集客にはならないし…。演奏会なら、リアルのお友達をたくさん頼る方が断然集客できる。
だからこそ違うコミュニティの人と関わったりとか、リアルな人との繋がりを増やした時期もあります。
集客をするんだったら、どちらかと言えばライブ配信の方がいいだろうし、動画を出すにしても、新規向けの動画を出しつつも、自分の内面的な部分を出してファンになってもらえるような動画を出すとか。やるやらないと言うよりは、やり方を考えながら自分の目的に合った使い方をしていけば良いと思います。
とにかく認知の総数を増やしたいならTikTokが良いだろうし、深いコミュニティーを作りたいならライブ配信が良いだろうしその人のやりたい音楽とか、成し遂げたいことに合わせたSNSの使い方をしていくのが、一番いいんじゃないかなと思います。
挑戦する人にエールを届ける楽曲『Bright tone』をリリース!
MM:ありがとうございます。そんなSNSでの試行錯誤を経て、現在に至るAkaneさんの最新の活動についてぜひお聞かせください。
Akane:リアルの活動とか演奏会の情報はTwitterやInstagramを見ていただけるとキャッチできると思います。1ヶ月半前から『S帯に行ったら無料ワンマンライブ開催』を目標にPocochaでの演奏配信も始めたのでぜひ遊びに来て頂けると嬉しいです!
MM:TikTokやYouTubeも引き続きやられていくのでしょうか?
Akane:そうですね。ライブ配信というのは内に向けた発信なので、外に向けた発信もやりつつ、両方やらないといけないのでそのバランスに今すごく悩んでいたりもするのですが、ここから挑戦していきたいなというところです。
MM:最近、オリジナル曲をリリースされていましたね。
Akane:はい! YouTubeに『Bright tone』という曲のMVが上がっています。挑戦する人にエールを届ける曲となっていて、作曲家のMasaki.さんという方に書いていただきました。クラリネット奏者・辻本美博さんが主宰するプロジェクト『BASE for the ARTIST』のサポートによって録音させていただき、8月3日に「Playwright」というインストレーベルからリリースすることができました。ぜひ聴いて欲しいナンバーです。
MM:SNSだけでなくリアルでのライブ活動も精力的に行なっていますよね。
Akane:『東京クラリネットフェスティバル』というイベントがあるのですが、そこで辻本さんにサポートしていただいて以来、すごくお世話になっています。オリジナル曲をリリースして、ワンマンライブもできて……。
BLUE NOTE TOKYOという夢の舞台で、北村英治さんと私をゲストに呼んでいただいて一緒に演奏できたというのがめちゃめちゃありがたいなって思っています。
Clarinet Guild FANTASIA (Akaneさんの所属するユニット)のメンバーに、辻本さんや周りの音楽仲間、そしてファンの皆さんにも恵まれていて、私は運がいいなと思っています。
AkaneさんのYouTubeチャンネルでは、東京クラリネットフェスティバルのダイジェストや裏側密着も公開されている。
第1回の様子
第2回(ブルーノート公演の様子)
目標はBLUE NOTE TOKYOでワンマンライブ。聴いた人を温かい気持ちにできるようなアーティストになりたい
MM:ますます活動の幅が広がるAkaneさんですが、今後の目標を是非教えてください。
Akane:今後もオリジナル曲をどんどん増やしていって、アルバムの制作をしたいと思っています。レコ発とかもオリジナルでやりたいです。
目標はBLUE NOTE TOKYOでワンマンライブをすること。
全国ツアーなど各地での生演奏もしたいです。SNSで発信しているからこそ生ライブのよさを感じる部分があるので、生演奏を聴いていただけるようなアーティストになっていきたいなと思っています。聴いてくださった方にエールを届け、温かい気持ちになっていただけるような、そういうライブができるようなアーティストになっていきたいなと思います。
MM:ありがとうございます。直近でライブの予定はありますでしょうか?
Akane:近くでいうと6月9日に六本木C*LAPSさんでバースデーライブを開催します。 クラリネットの演奏はもちろん、美味しいお食事やお客様が参加できるお楽しみ企画も考えておりますので、ぜひ足を運んでいただけたら嬉しいです。
それともう一つ。私は『Clarinet Guild FANTASIA〜幻奏〜』という、クラリネットで異世界系のパフォーマンスを行うユニットにも参加しています。こちらも2023年8月26日(土)に名古屋で、9月9日(土)に東京でワンマンライブを行います。ぜひSNSをフォローして続報をお待ちください!
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音大時代にSNSを始めてから多くのファンを獲得し、大活躍中のAkaneさん。今回のインタビューではその活躍の裏側にある、様々な工夫や苦労などもお話していただき、音楽家としても考えさせられる部分の多くあるインタビューとなった。
ワンマンライブやオリジナル曲のリリースなど、リアルでの活動にも今後注目していきたい。
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